EAの功罪-1 理想のIT開発論とその現実

すこし昔の話をしよう。

昨今、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が賑わっているが、実は過去にも似たようなデジタル化の潮流があった。いま思い出すのも恐ろしい、そして、もう二度と関わり合いたくないEA(Enterprise Architecture)である。

EAとはなにか

EAとは「業務とITの最適化」を目指し、企業内のすべての業務とITについて、数年後の「理想姿」をあらかじめ計画したうえでIT化を進めていくべきだ、という考え方である。代表的な適用事例としては米国財務省や国防総省、そして日本の電子政府構築などがある。ある程度の大企業では一度は取り組んだ方法論だろう。

業務のムリ・ムダ・ムラを廃絶し理想的な全社業務フローを描いたうえで、その業務フローに必要十分なITを用意していく。その言葉だけだといい方法論に感じる方もいると思う。むしろ「それが普通なんじゃない?」という感覚だろう。誰でも無駄なものは持ちたくない。加えて言えばIT開発は決して安くない。意外と知られていないのだが、大企業にもなると数十億円・数百億円規模のIT開発プロジェクトも珍しくなかったりする。

そして実際、数年前にEAが流行り(というかコンサルが流行らせ)、「業務のデジタル化を成し遂げ、さらに超絶クソ高いIT開発を必要最小限にできる米国発の方法論」だとの甘言にそそのかされ、トップダウンで導入が推進されていた。

その結果、日本企業でEAが上手くいった事例を僕はほとんど知らない。儲かったのは上手く逃げ切ったコンサルとパッケージベンダだけである。

IT開発の理想と現実

なぜうまくいかないのか。僕の経験で話そう。

まず、IT利用企業は業務とITの理想像を作ることができない。なぜかというと、理想像を描くためには全部署からキーマンを招集する必要があるが、この時点ですでに無理ゲーだ。キーマンは当然のことながら多忙で招集するのは難しいし、仮に招集できたとしてもEA活動に稼働を割くことはできない。すると、なんでこいつ?という方々が集まる。

とはいえ会社からの至上命令なのでそのメンツで計画を練り始めるわけだが、そこはまるで動物園の様相を呈することになる。ゴリラが「こういうフローになったらウチが困る」といえば、ライオンが「そもそもお前の部署の業務品質がゴミだ」といい、キリンが「あのシステムのこの画面が使いづらいんだよねー」という。

そんな楽しいショーが半年ほど続いたあと、コンサルが綺麗なキングファイルを作り上げて経営層に提出する。紋切り型の市場動向・ポジショニング・経営課題を枕詞にして「EA活動により素晴らしい計画ができました。これに従えば○○億円儲かります。」と言葉を添えて。もちろんそのキングファイルには、半年におよぶ議論の内容はほとんど盛り込まれない。実施に向けての継続検討課題一覧が小さい文字で羅列されるだけだ。

動き出した船は止まらない

では、このEA計画は実行されるのだろうか。

実行されないと思うのではないだろうか。

だが困ったことに実行されてしまう。

経営層から見れば、社内の人間は信用できないが社外の人間は信用できる。お高いコンサルができると言っているし、儲かるとも言っている。そしてキレイな資料で自分の悩み事(デジタル化が進まない、IT開発が法外に高い)が見事に表現されている。そこに拒否する理由は一切ない。ん?IT部門が出来ないと言っている?それはオマエラの予算が減るのが怖いだけだろう?

業務部門の部長たちから見れば、プロジェクトに人を出した以上、失敗するとは言えない。仮に失敗したとしてもシステム部門の責任に転嫁できる。EAは素晴らしい成果です。ぜひとも一丸となって推進しましょう!多少の課題はありますが皆で力を合わせて乗り越えていきましょう!私達にはそれができるはずです!

そして悲劇が始まる。

長くなるので一旦切ろう。僕はEAに懐疑的なスタンスだが実は良い部分もある。そしてそれはEA以外のプロジェクトにも使える話になる。DXが喧伝され、今後多数の方がDXに関わっていくだろう。似たような話であるEAについて、その功罪までお話しできればと思う。

つづく。

hiizumix.net