社内SE

社内SEは楽なの?10年間の社内SE業務で分かったこと

システムエンジニア界隈では社内SEが人気らしい。

「社内SE 転職」で検索してみると、システムエンジニアは辛いのでいますぐにでも転職したい。せっかく今までIT業界で働いてきたのだから、その経験を無駄にしたくない。そこで、社内SEであればバラ色の生活が待っているのではないか、といった論調が多くみうけられる。

確かに。

社内SEであれば、納期間際の無茶苦茶な残業はないので、ワークライフバランスが取りやすいとか。開発自体は丸投げするので、大量のバグに悩まされることがないとか。40代や50代になったときに、いままで通りに技術研鑽が続けられるかの不安がないとか。そのあたりは事実だと思う。

しかし、「社内SE = 楽なエンジニア」だと思って転職したりすると、あまりの仕事の違いに戸惑うのではないかと思う。実際に、僕の周りにも元システムエンジニアから社内SEに転職してきた方もいるが、口を揃えて、「こんな仕事だと思わなかった・・・、前のほうが楽だった・・・」と愚痴をこぼしている。

そこで、このエントリでは、10年以上携わってきた社内SEの視点から、社内SEとシステムエンジニアとの役割の違いや、システム開発における関心事の違いなんかを書いてみようと思う。

社内SEの仕事って?

まず社内SEはどんな仕事をしているのだろうか。

一言で言えば、 仕様変更を連発してシステム開発をデスマーチに追い込むこと である。

嘘です。

いや、あながち嘘でもないかも。。

僕自身はあまりデスマーチ化させたことはないのだが(?)、いまこの日・この時間にも仕様変更が無慈悲なガドリング砲のように乱発され、日本中の至る所で悲鳴や断末魔の叫びがあがっているのだろう。

で、なんだっけ。そうそう、社内SEの仕事。

いきなりだと説明が難しいので、まずIT業界の構造を俯瞰したうえで、社内SEのポジショニングから考えてみようと思う。

IT系業界は社内SEを頂点としたピラミッド構造

一般に、企業では、会計管理(ERP)、顧客管理(CRM)、物流管理(SCM)、営業支援(SFA)、情報分析(BI/DWH)など、企業内の業務機能を自動化したり、意思決定を支援したりするシステムを導入している。

これらのシステムがどうやって作られているかというと、――汎用的な出来合いの製品を使うときもあるが――、縦割り組織に依存した無意味な社内ルールだとか、時代遅れの法制度・商慣習だとか、偉い方向けのバカでもわかる画面とか、そんな個々のニーズにフィットさせた個別開発を続けている。

一方で、事業を行う上でシステムを開発しなければならないのだけど、自社にプロフェッショナルなシステムエンジニアだったり、プログラマだったりを雇っているわけではない。そこで、自社で暇をしている社内SEに要件をまとめさせ、社内SEはシステム・インテグレータ(SIer)という専門企業に外注(丸投げ)する。

SIerとはIT系多重請負構造の頂点に君臨するシステム構築の専門会社のことで、利用企業の無理難題を解析し、どのようなシステムを作るのかを考え、下請けに投げる企業のこと。B2B(企業対企業)が中心なので一般的には有名ではないかもしれないが、○○データ、○○通、○○電気などの名だたる大企業が名を連ねる。

つまり、IT業界は次のようなピラミッド構造だ。

  • システム利用企業の社内SEがSIerに丸投げし、
  • 丸投げされたSIerがどんなシステムを作るかを考え
  • 数多にあるSIer下請け会社が実際に作る

よくIT系多重請負構造の頂点はSIerだと言われるが、実は上流工程の前に超上流工程というものがあり、超上流工程で働いているのが社内SEとなる。

社内SEの仕事はシステムを使わせること

なんとなくポジショニングは分かったので、社内SEの仕事に話を戻そう。

丸投げするだけだよね。要らないんじゃないの?

コミPoに自分の仕事を否定されたくはないが、、、

確かに、システム開発をSIerに丸投げするのであれば、社内SEなんて必要はないのでは?と疑問を持つだろう。

まあ要らないのである。

要らないのであるが、意外とタスクがあったりする。

日常生活に置き換えてみると分かりやすいかもしれない。たとえばあなたが冷蔵庫を買うとしよう。冷蔵庫は家電メーカーさんが企画・設計・開発し、カスタマーサポートをしてくれる。ではそれ以外にどんなタスクが必要だろうか。

まず買うまでに、

  • どんなメーカーからどんな冷蔵庫が出ているかを調べる(動向調査)
  • 洗濯機のメーカーと同じメーカーにするかどうかを決める(システム戦略)
  • 家族構成や利用頻度より必要な機能やスペックを決める(要件定義)
  • 必要な機能やスペックから、ネットをみて予算感を把握する(RFP)
  • 冷蔵庫を買う目的・意図を整理して奥さんに許可をもらう(稟議)

買ったあと、

  • 冷蔵庫の搬入予定日を決める(プロジェクトマネジメント)
  • 冷蔵庫を配置する場所・電力などを整える(環境整備)
  • 冷蔵庫の搬入に立ち会う(施工管理)
  • 冷蔵庫に電源を入れて食品が冷たくなるか確認する(試験)

搬入したあと、

  • 「野菜はココ、肉はココ」とルールを作り家族に守らせる(定着化)
  • 冷蔵庫が壊れたときにメーカーに連絡して直してもらう(保守運用)

最後に、

  • 昔の冷蔵庫を捨てる(撤去・除却・産廃)
  • 思ったのと違う冷蔵庫だったら奥さんに経緯を説明する(ヘルプデスク)
  • 家計簿に計上する、ローンを支払う(会計、財務)
  • 電気代が想定以上じゃないかを調べる(効果想定)

などなどのタスクが生まれるだろう。

同じようなタスクをエンタープライズで行うのが社内SEの仕事となる。冷蔵庫を作るのはシステムエンジニアだが、家族により豊かな生活を送らせるため、冷蔵庫を使わせるのが社内SEとなる。

聞こえのいい言い方をすれば、次の通りだろうか。

  • システムエンジニアは、システムを作る
  • 社内SEは、システムを使わせて効果をあげる
なんかめんどくさそうだね

まあね。

作ることと使わせることは決定的に違う

「作ること」と「使わせること」の違いは大きい。

システムエンジニアのミッションは「作ること」。SIerの利益はシステムを作ったり、保守したりすることで生まれてくるので、作れば作るだけ儲けられるし、保守すれば保守するだけ儲けられる。

一方、社内SEのミッションは「使わせること」。システム利用企業の利益は本業である。トヨタなら自動車を売って儲けているし、ドコモならスマホを契約させて儲けている。システム開発はカネがかかるので、つまり、作れば作るだけ損するし、保守すれば保守するほど損する。システムは、使われて初めて儲けられる。

当たり前だといえば当たり前。

しかし、「作ること」と「使わせること」の違いが、自身の「評価」や「給与」に繋がってくるとなるとどうだろうか。

  • システムエンジニアは、作れば作るほど給与が上がる
  • 社内SEは、作れば作るほど給与が下がる(でも作る必要がある)

このミッションの違いが、システムエンジニアから社内SEに転職した方の「こんな仕事だと思わなかった・・・、前のほうが楽だった・・・」という愚痴に繋がっている。よかれと思って作ったものが使われなかったら、罵倒されて給料下がるわけだし。

実際、社内SEは楽なのか

社内SEは、システムエンジニアとは違う苦労がある

さて、ただ丸投げしているだけの人たちだと思っていた社内SEだが、意外とたくさんのタスクがあることが分かった。

そして、それらの様々なタスクは、作れば作るほど給与が下がるという力学のもとで業務遂行する必要があるということが分かった。

『つまり、作らなければいいのでやっぱりラクなのでは?』

そうなんだけど。

困ったことに「作らない代わりに、使わせる」というミッションがある。

この「使わせる」というのが、とにかく難しくて頭痛の種になる。たとえば、あなたがこのブログをiPhoneで見ていたとしよう。ここで、社内一括調達のため、スマホはAndoroidに統一し、セキュリティを担保したゴミブラウザ以外からの閲覧を禁止する、と言われたらどうだろうか。ま、「ふざけんな、バーカ」だろう。知らんけど。

長くなってきたので、使わせることの苦労や対策は追々エントリを追加していきたい。

社内SEは、システムエンジニアとは違う楽しさがある

最後に。

LTEやスマホの普及が社会を根本から変えてしまったように、今後、5Gだとか、AIだと、かデジタル・トランスフォーメーション(DX)だとかがこれからの世界を変えると言われている。世界が変わるという、私達は実に楽しい時代に生きているんだと思う。

そして、社内SEという仕事は、自らの手で世界を変えることができる仕事だと思う。それは特定部署の数人の業務かもしれない。それは社内の数百人の業務かもしれない。もしかしたら、日本中の誰もが使うサービスを作っているかもしれない。

はじめは、ただ「ラクをしたいだけ」でもいいかもしれない。

だけど、自らの手で世界を変えることを知ってしまったら、もう元には戻れない。

― 楽しい、嬉しい。

― 充実感、自己肯定感、そして全能感。

ぶっちゃけ面倒くさいことも色々あるし、技術以外のことも色々勉強し続けなければいけないし、正直、楽(ラク)ではないのかもしれない。だが、楽(たの)しい仕事であることは間違いない。

つまりはアレだ。社内SE、おすすめです。(笑)

おわり。