社内SE

「Re:ゼロから始める社内SE生活」#07 不具合だらけでも検収する

社内SEの体験を色々と振り返るフィクション小説です。

「Re:ゼロから始める社内SE生活」#07、不具合だらけでも検収する

前回はこちら。

「Re:ゼロから始める社内SE生活」 #06 デスマーチの解決方法は教科書に載っていない社内SEの体験を色々と振り返るフィクション小説です。 「Re:ゼロから始める社内SE生活」#06、デスマーチの解決方法は教科書に載って...

不具合だらけでも検収する

デスマーチプロジェクトに巻き込まれ、僕は彼女も生活も失った。数ヶ月におよぶ終電帰り。生きる意味、働く意味を問いかけ続け途方に暮れる毎日。転職を視野に入れて活動を始めようとしていたとき、なんの前触れもなくデスマーチは終わりを迎える。

ある日の朝、マントヒヒ課長が僕とカモノハシに対して指示を出す。

「残件は申し送りとして検収すること」

請負契約の中で、検収とはシステムを完成とみなしお金を支払うことを意味する。SIerにとっては丸投げプロジェクトの最終工程にあたり、社内SEにとっては新たな始まりを意味する言葉だ。

僕は当惑を隠せなかった。

「いや、まだたくさん不具合残っていますが?」

マントヒヒの意思は堅い。一切の反論を許さず「業務指示である」と言う。さすがに上司にそうまで言われたら逆らうことは出来ないので、自席に戻ってSIerさんとコンタクト取り、検収判定会議の日程調整をはじめる。一抹の不安を感じつつも。

 

検収判定会議当日。偉そうなオヤジ連中が会議室に集まった。

名刺交換をするとSIerの営業部長や開発本部長とのことだ。初めてみた。ふと横を見るとデスマーチで仕様変更対応をしていただいていたシステムエンジニアの方々も末席に座っている。

そして重々しい雰囲気の中、儀式が始まる。

「お客様のご協力により、システム稼働に十分な品質が担保できました」
うそつけ。

「当初のスコープは満足したと考えます」
そんなわけあるか。

「残件については誠意対応いたします」
ほんとだろうな?

うんうんと頷く課長の横で、カモノハシと僕、そして末端のシステムエンジニアさんたちは俯いたままただ黙り続けていた。欺瞞だらけの報告、できもしない約束に言いようのない怒りを覚える。

反論を許さない雰囲気のなか儀式は終わりを迎える。

「承知した。本件、検収とする」
「ありがとうございます」

そうして地獄のデスマーチは終わった。

なぜ不具合だらけでも検収するのだろうか。

あなたはマントヒヒ課長が検収した理由が分かるだろうか。

システムはまだまだ既知の不具合まみれだし、やればやるほど新たな不具合が出てくるような状況だ。だがこれで完成なのだという。

マントヒヒの理由は実にシンプルだった。今月の検収を逃すとシステム開発費の支払いが半期ズレとなる。それはマントヒヒのマネージャとしての資質・評価を著しく毀損する問題であり、その問題に比べればシステムの出来不出来などは些事に過ぎなかったのだ。

以前に述べたがマントヒヒは情報システムへの想いは一切ない。システムが使われようが使われなかろうが関係ないし、品質が良かろうが悪かろうが興味もない。しょせん腰掛けの部署だ。腰掛けのなかで予算執行を失敗するという汚名だけはなんとしても避けたい。そう、検収の理由はマントヒヒのメンツ、人事評価だけだった。

そしてシステムは無数の不具合を残したままローンチを迎える。

つづく。